2011年12月7日水曜日

冬尺蛾の季節

 写真は、クロスジフユエダシャクという蛾が交尾しているところです。12月4日に井の頭公園の玉川上水縁の擬木柵で撮りました。クロスジフユエダシャクは11月下旬から12月中旬ぐらいまでに成虫が出現し、交尾産卵します。
 ふつう、昆虫たちは冬になると活動止めたり、成長を中止して越冬態勢に入ることが多いのですが、クロスジフユエダシャクのように、わざわざ冬に羽化・産卵する蛾もいるのです。これらの蛾は冬尺(冬に現れるシャクガの仲間)と呼ばれています。
 写真の右上がメスです。メスは翅が小さく退化していて飛べません。冬尺はメスの翅が退化しています。また、口吻も退化して、成虫の期間中、飲まず食わずで過ごすものも多いようです。

 クロスジフユエダシャクは昼行性なので、オスが昼間ひらひらと飛んでいるのを見ることができます。見ていると、地面近くの低いところをあちこちさまよううように飛び回っています。なかなか止まらず、ときどき枯葉や地面に触れるように止まったかと思うと、すぐにまた飛び始めます。
 餌を探しているのでないとしたら、いったい何をしているのでしょうか。たぶん、地中からメスが羽化していくるのを見つけようとしているのではないでしょうか。羽化してきたメスはフェロモンを出してオスを呼ぶ(calling)そうですが、オスは少しでも早くメスを探し出すために、目でも探しているのかもしれません。

 これから3月ごろまで、井の頭公園内でも何種類かの冬尺蛾が現れます。多くは夜行性なので、昼間は木の幹や柵にじっと止まっているところしか見られませんが、たまに交尾や産卵している場面にも出会えるので楽しみです。

 体のいろいろな部分の退化や、あえて冬場に羽化・産卵する生き方に進化したわけをいろいろ考えると、一つ一つの生物がみな違う生き方をしている、つまり生物の多様性がますます鮮明に感じ取られます。

 これらの冬尺が、小鳥たちの冬場の貴重なタンパク源にもなり、冬の生態系をつくってもいるのですね。




2011年9月30日金曜日

冬虫夏草

これはなんでしょう?犬のフンではありません。野生動物のフンでもありません。
これはキノコです。俗にいう冬虫夏草で、ツクツクホウシタケという種です。その名の通り、ツクツクボウシにつく菌類で、写真左端が幼虫、右端が子実体(キノコ)です。たくさんあるものではありませんが、井の頭公園という身近なフィールドでもこのような生物が存在するのです。あらためて身近な自然の奥深さを知った想いです。
井の頭かんさつ会では未だ菌類をテーマにしたかんさつ会をやったことがありません。近いうちにやりたいと思っていますが、その際はよろしくお願いいたします!

2011年6月6日月曜日

月の女神と言われる蛾

 蛾も「苦手」「嫌い」と言われることが多い昆虫ですが、中にはなかなかきれいで魅力的と思われるものもいると思うのは私だけでしょうか。
 写真はオオミズアオ(大水青蛾)という名前のヤママユガ科に属する蛾です。開帳が100mm前後というかなり大きな蛾で、色が薄い水色をしています。

 学名はActias srtemis。ギリシア神話の月の女神アルテミスに由来しています。なかなかきれいだと思いませんか。

 ところでバーダーの人たちの中には、この蛾を見るとアオバズクを連想する人がいます。この蛾は夜行性で灯火などに飛来する性質があるので、夜に狩りをするアオバズクなどに捕食されることが多いからです。アオバズクがいたと思われる木の下に、20匹近くのオオミズアオの翅が落ちていたこともありました。

 私は今季、オオミズアオの羽化を3回見ましたが、ちょうど井の頭でもアオバズクの鳴き声が聞こえたという情報もあります。このきれいな蛾が飛ぶ姿も見てみたいし、アオバズクの姿も見たいですが、そのためには夜に観察しないとなりませんね。

2011年6月1日水曜日

アカスジキンカメムシは歩く伝統工芸品?

 カメムシと聞くと「臭い匂いを出すのでしょう。」と嫌がる方が多いですね。私はカメムシをずいぶん見てきましたが、今まで一度も匂いの被害にはあっていません。なので、カメムシもけっこう好みの昆虫です。
 あまり飛び回らないので観察しやすいし、いろいろユニークな生態をもつものがいて面白いのですが、 カメムシに最初に興味を持ったのは、写真のアカスジキンカメムシを見つけたときでした。「なんてきれいな昆虫だろう。ブローチにしてつけたいぐらい。まるで歩く伝統工芸品だ!」と思いました。

 アカスジキンカメムシは年1化で、7月下旬から5月中旬ぐらいまでの間、長い幼虫の時代を過ごします。一方成虫が見られるのは、5月中旬から7月ごろまでと短いのです。そのため幼虫はよく見らるのに、成虫にはなかなか出会わなかったので、それだけ初めて見つけたときはうれしかったわけです。

 最近はさすがに毎年よく見つけられるようになったので、感動は減ってきましたが、昨日は3匹も見つかりましたから、今が探すのにぴったりの時期だと思います。
 このきれいな模様も、葉陰に同化して見つかりにくくするカモフラージュの一種なのかもしれませんが、自然が作り出したデザインの素晴らしさにはびっくりさせられますね。

           よく見つかるアカスジカメムシの終令幼虫(この姿で越冬)

2011年5月25日水曜日

ゼフィルスの季節

 昨日の夕方3頭のアカシジミがコナラの木の上を飛び回っていました。今季初です。(写真は昨年のアカシジミ)


 アカシジミはミドリシジミ亜科に属するシジミチョウで、普通のシジミチョウより少し大きめです。この仲間は特別にゼフィルスと呼ばれることがあります。ギリシア語zephyrus(西風)が語源だそうです。

 ゼフィルスの仲間は、5月末から7月上旬の一時期にしか成虫が見られこと、きれいな色のものが多いことなどから、蝶の愛好家には人気です。日本には25種ぐらいいるそうですが、大抵は高地などにいる種類です。井の頭では平地性の3種しか見たことがありません。このアカシジミとウラナミアカシジミ・ミズイロオナガシジミです。

 みなさんもぜひこれら3種のシジミチョウを探し、年に一度のゼフィルスの季節を楽しんでください。井の頭でゼフィルスを見つけるには、コナラやクヌギの木やその下草を探すか、成虫が好んで蜜を吸いに来るクリの花で待つかするとよいと思います。

 昔は夕方になると、雑木林に上をたくさんのアカシジミが乱舞していたというような話を聞きます。ゼフィルスの幼虫たちはコナラやクヌギの葉を好んで食べるので、繁殖するにはそうした雑木林が必要なのです。でも、近年雑木林はどんどん減ってきて、ゼフィルスの数も少なくなってきました。少しでも多くのゼフィルスが見られるよう、井の頭の自然度を守っていきたいものです。
                       ミズイロオナガシジミ
                          ウラナミアカシジミ

2011年5月1日日曜日

ゆりかご

木々の展葉が進み、やがて新緑が深緑に変わってきて季節は春から初夏へ移ろいます。この時期に驚いたのはエゴノキに既にオトシブミの「ゆりかご」ができていることです。葉が伸びきるやいなや、いつの間にか仕事が終わっている。オトシブミはエゴノキの葉の展開を監視していたのでしょうか。このゆりかごの大きさや巻き方はヒメクロオトシブミの手によるものです。エゴツルクビオトシブミがゆりかごを「制作」するのはもう少し先になるでしょう。

2011年4月24日日曜日

センダイムシクイ

先週オオルリが出たきり、夏鳥の気配は止んでしまいました。このまま終わってしまったらどうしよう…そんな不安も感じる中、第70回井の頭かんさつ会の今日、センダイムシクイがまとまって飛来しました。

今日4月24日は「井の頭かんさつ会の日」。今から6年前の2005年4月24日に第1回の井の頭かんさつ会を開催したのです。最初のテーマは「カイツブリ」で、田中利秋代表がリーダーを担当しました。

あれから6年。延べ1800人の参加者をご案内し、4人でスタートしたかんさつ会のメンバーは12人に増え、新聞に雑誌、TVでも紹介され、仲間がたくさん増えました。この記念すべきハレの日、あちこちでセンダイムシクイのチヨチヨビーの声が聞こえました。

2011年4月19日火曜日

スプリング・エフェメラル

 井の頭公園では、ソメイヨシノはほぼ散ってしまいましたが、春の花は次々と咲き始め、百花繚乱。また、昆虫たちの姿も次々と見られるようになりました。

  東日本大震災の被災地の桜も咲き始めているという報道に触れ、被災された方々の生活にも、一刻も早く春が訪れますようにとお祈り申し上げています。

   さて、蝶についてみれば、井の頭では成虫越冬蝶のウラギンシジミ・ムラサキシジミ・キタキチョウ・キタテハ・ルリタテハが活発に動き始め、次いで蛹越冬のモンシロチョウやツマキチョウ・ナミアゲハやクロアゲハも羽化し、先日は幼虫越冬のヤマトシジミも目にしました。まさに蝶の世界も春爛漫です。

 その中で、一際春を感じさせるのがツマキチョウ(写真♂)。モンシロチョウは確かに春一番に動き出す蝶に見えますが、実は何代も成長を繰り返し、晩秋まで観察することができる蝶でもあります。 それに対し、ツマキチョウは年に一代で、成虫は春にしか見られません。このように、春にしか姿を目にすることができない蝶を、スプリング・エフェメラル(春の妖精、または春の儚いもの)と呼ぶことがあります。(spring ephemeral 本来は春先に咲く草本の花の呼び名でした。)

 ツマキチョウはモンシロチョウによく似ていますが、ちょっと小ぶりで♂の翅の先(褄)が黄色いのが特徴です。(♀は黄色くありません。)私は、この蝶がなんとなく好きで、春には必ず探して確認しています。でないと、来年までお預けになってしまいますから。そして、どんな花を好み、どんな植物に産卵するかなどを短い間に少しでも観察しようと努めています。

 ところで、スプリング・エフェメラルのツマキチョウは「儚い命」なのでしょうか。よく考えるとツマキチョウの一個体の一生はほぼ一年間です。成虫は姿をすぐに消しても、卵→幼虫→蛹の姿で翌春まで生きているのですから。それに比べて、例えばモンシロチョウの成虫は晩秋まで見られますが、一個体の命はけっこう短いです。ですから、成虫が見られる期間が短いから「儚い」と思うのは、単に人間の感傷かもしれません。ものは考えようですね。

 みなさんも今しか見られないスプリング・エフェメラルを見つけて、春を感じ取ったり、命のありようを考えてみたりしてください。    

2011年4月17日日曜日

木の中の木

展葉が進むトチノキの芽吹きを観察していた時、トチノキの掌状複葉の葉がある文字に見えました。どうでしょう、「木」という漢字に見えませんか?私にはトチノキのあちこちに「木」の文字がぶら下がっているように見えたのです。トチノキは木の中の木、というわけです。些細なことですが、こういう視点も面白いと思いませんか。

2011年3月9日水曜日

コブシ咲き始めました


 3月に入って暖かい日も多くなり、井の頭池のほとりではコブシの花が咲き始めました。白く大きな花はソメイヨシノよりも一足早く春の訪れを告げ、野を華やかに彩ります。  
 咲き始めた、と書きましたが今は膨らんだ蕾の一部が白い花弁を覗かせている状態で、完全な開花まではもう少しです。
 モクレン属のコブシは大変素晴らしい芳香を持っています。かつて資生堂はマグノリアという化粧品をラインナップしていました。それはハクモクレンやコブシから抽出したアロマを使った製品でした。マグノリアとはモクレン属の学名なのです。同じモクレン属でさらにいい芳香なのがハクモクレン、そしてニオイコブシと呼ばれるタムシバです。公園の管理者は植物を五感で楽しむことを知らないようで、人に触れる枝は伐ってしまいますから、なかなか香りを楽しむことができる箇所はないのですが、もしチャンスがあればぜひ香りを楽しんでみて下さい。花だけでなく枝葉も素晴らしい芳香です。桜を見るのもいいですが、コブシの観察で春を五感で楽しんでみませんか。

2011年3月1日火曜日

モンシロチョウの初見日はいつ?


 モンシロチョウがひらひら飛んでいるのを見ると、春だなぁと感じませんか。モンシロチョウは蛹の姿で越冬し、春になって暖かい日が続くと羽化して成虫になります。
 このように季節の変化と生態が密接につながっている生き物は、気象庁によって気象生物季節観測の指標に指定されています。他に桜前線として有名なソメイヨシノの開花やウグイスの初鳴き、ツバメの飛来なども春を告げる現象ですね。
 昔の人は、より自然と深くかかわって生活していたのでしょう。この時期をしっかりとらえて啓蟄と呼んでいました。
 モンシロチョウは井の頭周辺では例年3月上旬ごろに羽化していますが、年によって2月下旬だったり、3月下旬だったりしますし、もちろん九州では早く、東北では遅いのが通例です。今年はどうでしょうか。
 暖かい日が続いたら、ぜひモンシロチョウの姿を探してみませんか。毎年のデータを積み重ねると、その年の気候の特徴や、地域の気候変動なども見えてくるかもしれません。
追記:
井の頭公園の近隣にある練馬区の立野公園では、3月6日にモンシロチョウが観察されたそうです。また、私も、本日(3月17日)杉並区で初見しました。強い風に抗して、元気に飛んでる蝶の姿に勇気づけられます。みなさんもぜひ探してみてください。
 

寒緋桜

井の頭公園西園では河津桜が7分咲きで、寒緋桜も開花しました。沖縄で桜の開花といえばこの寒緋桜、南方系であることはその派手な色を観るとなんとなくわかります。この寒緋桜、緋寒桜とも呼ばれますが、彼岸桜と間違えないようにカンヒザクラと呼ぶのが正解かもしれません。
井の頭公園西園ではこの後、大寒桜が咲き始め、山桜や染井吉野が咲くのはもう少し先となります。

2011年2月6日日曜日

なにに見えますか

27日日曜日の井の頭かんさつ会は冬芽がテーマです。こんな『顔』を見つけるのが楽しいです。これ、なにに見えますか?
私はヒツジかな…

2011年1月25日火曜日

寒さに耐える小さな生命

冬の昆虫ネタをもう一つ。ワビスケの葉の裏にぶら下がっているこれ、なんでしょうか?
越冬中のウラギンシジミです。ムラサキシジミ、ムラサキツバメなどと同じで成虫越冬する種です。卵や蛹の状態で冬を越す蝶がほとんどなのですが、日本の蝶約250種の内の1割にあたる約25種ほどが(日本産蝶の種数の説がばらばらなので約)成虫で越冬するそうです。この寒さをじっと我慢する(というか気温の上昇を待っている)姿には感動さえ覚えます。井の頭かんさつ会でウラギンシジミに出会えるかもしれません。

2011年1月23日日曜日

蛾の形のパズル

第67回かんさつ会の後片づけをしていて、昆虫に詳しいおはるさんに教わったのがこれです。擬態のお手本のような姿のキノカワガという昆虫です。イヌシデの樹皮の色に同化し、割れ目にはまって溶け込む姿は、まるで蛾の形をしたパズルのピースのようです。

2011年1月20日木曜日

樹液

樹液、と聞くとクヌギやコナラのそれと、カブトムシ、クワガタムシ、オオムラサキなどの昆虫をイメージするかもしれません。しかしながら、他の樹木だって樹液をにじませますし、それを目当てに集まるのは昆虫だけではありません。写真はシラカシの樹から樹液が出ているところ。これをなめにくる生きもの、それが何かは井の頭かんさつ会で一緒に観察してみましょう。

2011年1月11日火曜日

土のお山

井の頭公園を歩いていると、あちこちに土の山が出来ているのに気づきます。これ、何だか知っていますか?子供が遊んだ後ではありません。土いじりのプロの仕業なんです。
そう、モグラです。この山を俗にモグラ塚と言います。地中をモグラが掘り進み、押し出された土が盛り上がって山になるわけです。そしてこの山の中がどうなっているかというと…続きは井の頭かんさつ会で一緒に確かめましょう!

2011年1月9日日曜日

クロガネモチ

井の頭公園の最新食糧事情です。トウネズミモチもほとんどなくなりましたが、このクロガネモチはかなり残っています。赤い実はあまり美味しくないといいますが、実際そうなのでしょうか。他の赤い実ではナンテンも残っています。イイギリは完売です。アオキはこれから赤くなります。

2011年1月4日火曜日

「見る」のではなく「観る」

今日、井の頭公園で見かけた一コマです。これがシジュウカラだとわかる人は多いと思いますが、このシジュウカラが何をしているかを正確に説明できる人はそうそういないはずです。それはふだん「見る=see」ことはしていても、「観る=watch」ことをしていないからです。その生きものが、なぜそこにいて、何をしているのか、井の頭かんさつ会ではそういう視点をご紹介するよう心がけています。その生きものが何科に属して、英名や学名ではなんという、といった図鑑に書いてある学術的な情報はさほど重視していません。誰でもよく「観る」ことで教科書や図鑑に書いていないような発見がある、それが自然観察の面白いところなのです。